寝る前に読むお話1

 夕暮れが近づいてきた。辺りは暗がりの中で、何かがうごめくように、何だか分からない動きが感じられていた。そのうごめきをよく見てみると、そこには、小さな虫が輝いているが分かった。

「蛍だ」

 私は、自身の心が躍るのが分かった。蛍を見るのは初めてだった。そうしている内に、蛍はすうっと空へと舞い上がっていった。そしてそのような蛍を眺めていると、ふと心の中に線香花火のような光が、ふわっと広がるのを感じた。

 私は、小半時ほど、その場でたたずんでいた。そして、そのような場面の中で、私は、自身の存在そのものが既にだれかの存在を含んでいるような感覚に襲われたのである。

「誰かがいる」

 そう。誰かがいるのである。この誰かを探して、私たちは自身の存在を生きていた。私は誰かの存在に関わり、その関わりの中で、その誰かそのものが誰なのかを知ることのために、その誰かを探していたのである。